数年前から、単に治療成績のみが病院の質を示す訳ではないといという考えが広がり始め、医療の質指標(QI : Quality Indicator)が注目されるようになりました。同じ手術でも軽症の患者が集まる病院と重症の患者が集まる病院とでは単純に比較できません。重症患者が集まる病院の方がよりよく組織されたチームを持っていたとしても、治療成績は悪いという結果が出てしまうかもしれません。医療の質は「構造(ストラクチャー)」、「過程(プロセス)」、「結果(アウトカム)」という3つの視点から評価されなければならないと言われています。「医療の質指標」とは、どのような医療を行っているかをこの三つの視点から客観的に数値として表した指標のことです。
数値として表すことは、過去と現在を客観的に比較したり、他の病院との比較を可能にします。一方、味気ない数値で表されると現実の医療活動の何をどのように反映しているのか分かりにくいという欠点もあります。単に数値を出すだけではなく、その意味するところをしっかり吟味し、医療活動の改善に繋げてこそQIの意義があるといえます。QIはそれをどう使うかが最も肝心です。
当院の属している全日本民医連は、2010年から「医療の質の向上・公開推進事業」を開始しました。2011年から厚生労働省科学研究費「医療の質の評価・公開等推進事業」が始まり、全日本民医連の取組みもこれに採択されました。参加病院数は年を経るごとに増え、2012年は74病院となっています。当院は、2010年からこの全日本民医連の取組みに参加しています。
この事業に取り組んでから、病院にとってQIを活用することがいかに大切なことかが実感されました。そこで2012年にQI委員会を設置し、継続的にQIに取り組む体制を作りました。2012年度は、「公開推進事業」以外の当院独自の指標の検討、これまで算出してきた指標を公開する準備を行ってきました。今回公開するのは「公開推進事業」に提出した当院のデータです。まだ2年分あるいは1年分のデータしかなく十分な考察ができている状況ではありませんが、公開することそのものに意義があると考えています。
公表するにあたって指標に関係する部署や全医師に事前に意見を求めました。集計の手法や算出方法の妥当性についての指摘、データの信頼性の問題など、それぞれの専門から厳しい指摘を受けました。修正すべき部分は修正して今年度の完成版としましたが、データとしての弱点がすべて克服されたわけではありません。それぞれの指標のコメントにデータの持つ問題も簡単に触れています。各専門領域の意見を踏まえた、正確に集計されたデータは大前提です。データの信頼性を高める努力は今後も続きます。
すでに達成できている指標は満足を与えますが、新たな改善には繋がりにくいものです。より成績の良くない指標の方が業務改善の必要性を指し示してくれます。そのような適切な指標を探すことも今後の取り組みの柱です。これらの指標を活用して医療活動を改善させていくのがQI委員会の目標です。
今回は医療関係者の方ばかりでなく、一般の方々にも見ていただきたく簡単に解説を添えています。QIを通して坂病院のありのままを知っていただくのが願いです。多くの方々のご指摘やご意見を頂ければ幸いです。