2018年度宮城厚生協会新入職員辞令交付式 -- 理事長あいさつ

2018.04.02

4月2日、「2018年度宮城厚生協会新入職員辞令交付式」が執り行われました。理事長あいさつをご紹介します。

理事長あいさつ

(公財)宮城厚生協会理事長 小熊 信

本年度入職された仲間は84人です。職員一同皆さんを歓迎いたします。 今、皆さんの胸中には新たなスタートを切る喜び、緊張、不安など様々な思いが交錯していることと思います。これからの社会生活を歩んでいくうえで、同期入職した仲間とのコミュニケーションを大切にして、励ましあいながらがんばっていただきたいと思います。

法人の沿革、概要、理念

当法人の原点は、1912年、この地に、坂 定義(さかさだよし)氏が私立塩竃病院を開設したことに始まり、その後1937年に創始者の名を冠して「坂病院」に改名されたことに遡ります。坂先生によるこの地での貧しい住民への医療活動によって培われた「貧富の差に関わらず無差別の医療を実践する」という理念の元、より組織的、公益的な社会厚生事業を行うことを目的に、1950年に坂病院を中核に「財団法人宮城厚生協会」が設立されました。その後坂総合病院として105年、そして宮城厚生協会としては68年という長い歴史の中で、みずからも変革を重ねながら、地域住民の「いのちと暮らし」を守ることに尽力して参りました。その後、公益性の高い事業体として2013年に「公益財団法人宮城厚生協会」に生まれ変わり、現在、4病院7診療所と7か所のケアステーションを擁する民間医療事業法人に成長してきました。そして「患者の権利を尊重し、患者に共感し患者と協同して、平等・安全の医療をめざしていく」ことを我々の組織理念として位置づけた上で、「差額ベッド」を持たず、「無料低額診療制度」を導入し、「公平で平等」な医療と介護の事業をめざしています。
これから皆さんが関わっていく医療介護事業は、公的制度に規定されるいわゆる制度事業であり、その時々の政治や行政の施策に大きく影響を受けます。とりわけ近年の自民党政権による社会保障制度の切り崩しにより、医療や介護を取り巻く環境は、厳しい状況となっています。
このような中で私たちは、主体的な組織力や経営基盤を強化し、我が国の社会福祉制度を政治的作為によって後退させないように、様々な社会運動に取り組んでいます。
皆さんも今後も社会に目を向けて、制度矛盾や社会的な問題是正のために様々な活動をしていくことを期待します。

新入職員に望むこと。「ヒューマンなエピソードから」

堅苦しい話はこのぐらいにして、ある地方新聞に掲載された小さな記事を紹介したいと思います。昨年七月に実際あったある初老の男性の体験談です。
「ある男性は、羽田空港から九州の実家に行くために搭乗予定便の航空会社のカウンターを訪れました。彼は、その数日前に長年連れ添った妻を亡くし、葬儀を終えて九州の菩提寺に納骨するため、飛行機に搭乗しようとしていました。遺骨を手荷物として機内に持ち込もうと考えていましたが、それが可能か念のため確認するために、カウンターにいた航空会社の職員に聞きました。
『妻の遺骨を手荷物として機内に持ち込んでも大丈夫でしょうか?』と尋ねたところ『どうぞ構いません』と職員が答えました。
彼は遺骨を抱えながら機内に入り、頭上の棚に入れました。間もなくすると一人のCA(キャビンアテンダント)が彼のもとにやってきて、次のように尋ねました。
『失礼ですが、お連れ様はどちらにいらっしゃいますか?』彼は何を尋ねられているかわかりませんでしたが、先ほどの空港カウンターの職員が機内のCAに連絡していたことを理解するのに長い時間はかかりませんでした。彼は頭上の棚を指差して『上の棚に入れました』と答えました。するとそのCAは『幸い席が空いていましたので、お隣の席を確保しておきました。お連れ様をご案内させていただきます』と言って、荷物棚から妻の遺骨を下ろして、彼の隣の席におき、ブランケットの上からシートベルトを掛けていきました。飛行機が離陸して間もなくそのCAは再度彼のもとに来て『お連れ様は、お飲み物は何がよろしいでしょうか?』と尋ね、遺骨の前のテーブルにお茶を置いていったそうです。」
さて皆さんは、このヒューマンなエピソードをどのように受け止め、どう感じ取られたでしょうか。
私は、組織の長として、職員の成長はどうあるべきかという観点から考えてみました。地上勤務の職員は、悲嘆が垣間見られた初老の男性を眼前にして、「何らかの配慮をしてあげたい」と思いながらも男性が自分の持ち場から離れてしまうため、CAにその配慮を託したのでしょう。そして連絡を受けたCAは「この方にどんな配慮をしてあげられるか」を自分自身の中で考えたのではないかと思います。この2人の職員は、妻を亡くし悲壮感を漂わせた男性を乗客として迎え、何かを感じ取り、誰からも指示されることなく主体的な行動を惹起させたのではないかと思います。そこには、組織内における業務連携の成熟度の高さを見て取れるとともに「安全、快適に乗客を目的地まで運ぶ」という、自分たちの職業上のミッションへの強い使命感と一人の乗客に対する深い感性がその行動を後押ししたのではないかと想像します。
皆さんは、これから医療や介護を介して患者という生身の人間を対象に、その生命に直接・間接的に関わっていきます。このような中で私は、先ほど紹介した航空会社の職員のように、皆さんも患者さんに対して人間味あふれる行為を提供できるような社会人に成長されることを期待したいのです。そのためには、患者さんの言葉・表情・行動などから様々な「想い」や「心情」を感じ取れる深い「感性」や高い「感受性」が備わっていることが必要です。しかし「想いを感じる」ことだけでは、必ずしも皆さんの行動を変革させることにつながるとは限りません。「患者から感じられた想い」が患者さんへの主体的な行動へつながるかどうかは、職業人として社会や当法人が求めているミッションが自分の価値観にどれだけ同化されているかに大きく影響されます。
皆さんは、今後当法人の理念を十分理解して、社会、法人から託されたミッションを具体的な行動につなげられるよう、主体性や感性の醸成に努力してください。

結び

当法人の将来を担うのは皆さんです。われわれの事業は、いわゆる労働集約型の事業であり、法人の発展は皆さんの成長に大きく依拠します。そのような点で皆さんは様々な経験や学習を通して人間として大きく成長し、私たちの法人内で社会人として活躍されることを心から期待して、歓迎のあいさつといたします。本日は入職おめでとう。