日本の医療保障分野は少子高齢化という社会構造の変化により、医療と介護に関する制度やサービスへの原資の按分や分担が狭められるなか、新型コロナウイルス感染症が事業運営を直撃しています。この感染症は医療現場にとっては、終息に向け全力で立ち向かわなければならない新たな脅威です。また、新型コロナウイルス感染症は社会のリモート化を推し進め、オンライン診療の推奨などこれまでとは異なる対応が打ち出されています。2021年9月にデジタル庁が設置される予定であり、「規制改革」「デジタル化」として医療・介護分野は大きな変化にさらされることになます。この大きな流れを受け止めつつ、法人としてのあるべき姿を模索し事業展開を進めなければなりません。いのちと暮しを守ることに力を尽くし、地域住民の健康と健やかな生活を支える事業体として、日本国憲法が定める平和・人権・民主主義の原則と国民の生存権と文化的生活の向上のため役割を果たしていきます。
公正な医療と介護・福祉を提供し、安心して暮らせる地域づくりに貢献します
全世代型社会保障改革の審議は、「社会保障と税の一体改革」が示された以降も課題は山積のままにあるとし「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」が設置されています。議論の遅れはあるものの、新型コロナウイルス感染症の終息後を見据え準備が進められています。また、新型コロナウイルス感染症により雇用状況の悪化も進み、社会保障制度としての医療保険財政を取り巻く環境も厳しさを増しています。
新型コロナウイルス感染症がもたらした世界的な危機において、医療提供体制の機能分化と効率化を進めてきた日本の医療・福祉・公衆衛生は、機能の弱体化としてあらわになり今後の在り方が問われています。これまで議論されてきた地域医療計画をこのまま進めることは、医療提供体制の崩壊を招きかねません。地域の実情を踏まえた役割分担と連携、地域完結型としてのあるべき姿への見直しが求められます。
多くの医療機関では、新型コロナウイルス感染症の治療と通常の診療との両立が困難な状況にあり、感染を恐れての受診控えも相まって大きな減収に見舞われています。新型コロナウイルス感染者を受け入れている基幹病院には診療報酬の加算や休床補填が行われているものの、日本の医療を支えている多くの医療機関への減収補填は行われていません。また、医療・介護従事者は、感染リスクへのストレスや緊張状態にさらされ続け、差別や偏見なども含め過酷な状態に強いられています。
新型コロナウイルスワクチンの接種が医療従事者を先行して始められています。次には高齢者や基礎疾患を有する方を対象に実施され、全国民を対象として進められることになります。ワクチンによる集団免疫を得るには7割近くの接種が必要とも言われ、副反応への補償整備も求めながら行政とも連携し医療機関として役割を果たさなければなりません。
社会保障費の自然増を抑えるために、この間の診療報酬は低く抑えられたままになっており、医療の高度化や高額な新規薬剤の使用に伴う経費増など、診療の現場とは乖離した状態が続いています。本来、医療機関の健全な経営を保障すべき診療報酬が、病床削減や機能再編などの政策を誘導する施策に使われており、医療機関はそれに対応するために事業構造の再編や転換が絶えず求められています。
2021年度改定は、新型コロナウイルス感染症や大規模災害が発生する中で、団塊の世代の全てが75歳 以上となる2025年と2040年も見据えての改定となります。0.7%の引き上げは新型コロナウイルス感染症特例対応0.05%(9月までの時限的措置)を含めたものです。この引き上げ幅では、新型コロナウイルス感染症対策の強化、介護職員の処遇改善や求められる介護サービスの向上には全く不十分です。
感染症や災害への対応力強化では、現行の委員会の開催、指針の整備、研修の実施等に加え、訓練の実施に対する評価や業務継続に向けた計画等の義務付けに備えなければなりません。地域包括ケアシステムの推進では、認知症への対応力向上に向けた取組や看取りへの対応充実も示されています。また、自立支援・重度化防止の取組の推進として、リハビリテーション・機能訓練、口腔・栄養管理、連携強化も示されています。介護人材の確保では、処遇改善や職場環境の改善としての対応が必要となります。サービス提供体制強化加算における介護福祉士が多い職場の評価が充実されることから、人員配置基準における収支バランス、業務の見直しも課題となります。制度の安定性・持続可能性としては、訪問看護のリハ評価、提供回数等の見直し、長期間利用の介護予防リハの評価、居宅療養管理指導の居住場所に応じた評価、負担額(食費)が見直されます。介護報酬の改定に向けた報酬体系の簡素化(加算の整理統合)などにも対応しなければなりません。また、利用者にとっては切れ目のないサービスとして、医療と介護の連携が益々重要となります。
未曾有の被害をもたらした東日本大震災から10年を迎えました。道路や建物などインフラの復興がすすむ一方で震災の記憶が薄れ被災者の生活や抱えている困難が見えにくくなっています。心のケアを含む健康問題、経済的格差や地域コミュニティの再建など課題はより複雑になっています。経済的困窮者への公的支援、後期高齢者や非課税世帯を対象とした無料低額診療事業は受療権の保障としても被災者の支えとなっています。被災者生活再建支援法改正案が昨年の参議院本会議で成立しました。自然災害で住宅が損壊した被災者への支援は拡充されることになりますが、東日本大震災で被災した方も含め、被災状況と実態を把握しながら生活再建に向けた支援と人権を守る取り組みの継続が求められています。
本公益財団は、公益認定法人として、公益事業の推進と経営の透明性、健全性を確保し、社会的役割の発揮に全力を尽くします。
平和憲法の理念を高く掲げ、すべての人が等しく尊重される社会をめざし、これまでの歩みをさらに発展させ、人権が大切にされるよりよい社会を目指します。地域住民とともに力を合わせ、より広範な連帯で貧困と格差・超高齢社会に真正面から向き合い、日常の医療・介護の実践、権利としての社会保障の向上を目指し事業活動を進めます。2016年に策定した「経営構造転換5ヶ年計画」を引き継ぐ新たな「5ヶ年計画」を定め、中長期構想に向けた安定的な経営を目指します。