2018年度

2018年度(平成30年度)宮城厚生協会 事業計画

はじめに

本公益財団は、設立趣意書(1950年2月)で謳う「単に疾病の治療または療養だけが対象になるものでなく、疾病のよって起こる社会的な疾患を匡正するまでに発展せしめなければならない。こうしてこそこの事業の新しい真の姿が発揮される。即ち広い意味の厚生事業にまで手を延ばさなければならない。またこういう諸活動と諸施設を一般大衆の福祉の増進という目標のもとに統一されれば医療事業もはじめて完成の域に達することと信ずる」を基本視点としている。

宮城厚生協会の諸事業が、地域医療と介護、福祉の充実に寄与し、地域住民の健康と健やかな生活を支え得ることを願い、日本国憲法が定める平和・人権・民主主義の原則と、国民の生存権と文化的生活の実現のために努力するものである。

宮城厚生協会の使命と存在価値
  • わたしたちは、非営利・公益の保健・医療・福祉事業で社会に貢献します。
  • わたしたちは、基本的人権が尊重される社会をめざします。

Ⅰ. 事業経営をめぐる環境認識

貧困と格差をめぐる特徴

新自由主義的政策が全世界で進む中、日本においてもかつてない格差社会が形成されてきており、中間層の減少・消滅とともに所得階層の両極化など、2009年以降の「第二の貧困拡大期」が続いている。低所得者層の拡大にともない、生活保護をはじめとする社会的扶助の重要性はますます高まっている。特に、生活困窮高齢者世帯及びその予備軍の世帯は、2030年には500万世帯以上に達すると推計され、低所得者の医療受診抑制を生み出し、経済格差に基づく健康格差はますます拡大することが懸念される。

働き方改革

働き方改革は、今後減少する労働人口を補完する形で様々な働き方が模索されている。多様な働き方による潜在的な労働力を掘り起こすことで社会資本の充実を目指す一方で、副業の推進など、長時間労働を容認する政策など課題もかかえている。

「同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善」「賃金引き上げと労働生産性向上」「罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」「女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」「病気の治療と仕事の両立」「子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労」「雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職・再就職支援」「誰にでもチャンスのある教育環境の整備」「高齢者の就業促進」「外国人材の受け入れ」などの柱が掲げられ、多岐にわたる改革が検討されている。特に「罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正」の項目には、医師の時間外労働規制の問題が含まれており、法改正から5年後をめどに規制を適用するとされている。

医療・介護従事者をとりまく状況

医療・介護の現場では、少ない人員で業務をこなさなければならない状況に加え、特に介護分野では低賃金と高い離職率が常態化している。医療の全般的な高度化、医療機器の取り扱いの複雑化、患者・家族からの様々な要求の高まりなど、医療・介護の現場では、避けることのできないストレスにさらされている。

2018年度からの新専門医制度が開始される。専攻医の一次登録では地域偏在が顕著であり都市部への集中がみられる。内科と外科登録数が減少し、眼科、耳鼻科、泌尿器科などが増加している。偏在により外科や小児科、産婦人科の専攻医が一桁台の県もあり、極めて少なくなった県や地域は医療システムの継続さえも危ぶまれる。

2018年度診療報酬改定の影響

高齢化による社会保障費の自然増を上回る削減方針により全体でマイナス1.19%となる。診療報酬改定率が本体プラス0.55%となったが体制や成果が重視され、重症度・医療看護必要度、地域連携評価、在宅復帰率の評価基準が厳しくなる。介護報酬はプラス0.54%、障害福祉がプラス0.47%、薬価はマイナス1.74%となる。

高額療養費制度負担上限額の引き上げ、介護保険の利用者負担増や保険料引き上げなどにより、今まで以上に受診・利用控えに拍車がかかることが予想される。また、国民健康保険の財政連営が都道府県単位に移行する影響も懸念される。

Ⅱ. 2018年度事業計画

本公益財団は、公益認定法人として、公益事業の推進と経営の透明性、健全性を確保し、社会的役割の発揮に全力を尽くす。東日本大震災発生から7年、被災者・被災地が抱える問題はますます複雑化・深刻化している。社会的風化が表れつつある中、長期的視点で支援活動を行う。「保険医療2035年」も視野に「2025年医療・介護改革」への本格的な対応を進め、保健・医療・介護事業を一体のものとして、環境変化に対応した中長期事業計画を策定する。

5ヶ年計画のもと、理事会機能強化をはじめとする組織変革、新しい人事賃金制度をすすめ、職員教育・研修システムを充実させ、全職員が参画する事業運営に努める。

  1. 患者の立場にたつ診療事業、無料低額診療事業を行う
    • 地域医療支援病院の坂総合病院は、地域包括ケアの中核として地域連携を重視する。入院を中心とした救急・専門医療を充実させ6疾患5事業に取り組む。
    • 各病院・診療所は、地域での医療・介護の連携を大事にし、求められる役割を担う。
    • 高齢者入居施設「はなみずき」は、低所得者や在宅医療を必要とした方でも入居できるホームとして切実な地域需要に応える。
    • 第二種社会福祉事業として、無料・低額診療事業を重視する。
    • 「医療相談」「生活相談」「介護相談」に積極的に取り組む。
  2. 保健予防・集団的健康管理事業を行う
    • 「協会けんぽ」健診事業の充実、専門性を生かした特定健診・保健予防活動を重視する。疾病予防事業としての運動療法、労働安全衛生法に基づく産業医活動に取り組む。
    • 振動病・頚肩腕障害・職業性腰痛、被曝者健診及び被曝二世健診、アスベストによる健康障害やじん肺に関する健康相談等労働者・住民の健康問題に取り組む。
  3. 医療従事者の研修教育、医学・看護学等の研究事業を行う
    • 東北大学と東北医科薬科大学との連携による医師・薬剤師養成、みちのく総合診療医学センターでの家庭医・総合診療医養成に取り組み、地域医療を担う医師・薬剤師を育てる。
    • 専門研修のため国内外大学・研究機関への研修派遣を行い、地域医療に貢献する。
    • 救急医療・地域連携などの地域開放型研修会の開催、救急救命士の認定研修、認知症対応力能力向上を目的とした研修会等を実施する。
    • 医師・薬剤師・看護師をはじめとした、医療・介護系学生の研修・実習の受け入れ、育成を行う。
  4. 訪問看護・介護、通所、在宅介護支援事業、障害者の医療・福祉事業を行う
    • 悪性疾患への対応、障害児・重度の乳幼児への訪問、ケアステーションを核とした在宅看取りへの対応など、在宅での療養と介護を支える。
    • 医療度の高い遷延性意識障害者、重度の障害者の療養を支える。
    • 24時間定期巡回・随時対応サービスなどの在宅サービス強化やリハビリテーションなど自立支援型サービスの計画的な人材育成を行う。
  5. 地域住民との協力による健康増進事業を行う
    • 地域住民と協力して「健康相談会」「復興公営住宅等での健康相談会」「路上生活者等の健康を守る健診・食事会」等の健康増進に取り組む。
    • 県内に避難している福島第一原発被曝者、被災住民の健診や相談会、双葉町からの避難者や県南地域での甲状腺エコー検診等に取り組む。
  6. 総合的な社会保障制度確立に関する事業を行う
    • 地域住民の健康権を守るため、社会福祉士などによる医療相談・生活援助に取り組む。
    • 社会保障制度が活かされるよう、医療・介護現場の気づきを大事にしながら改善援助に取り組む。