2017年度

2017年度(平成29年度)宮城厚生協会 事業計画

はじめに

本財団は、設立趣意書(1950年2月)で謳う「単に疾病の治療または療養だけが対象になるものでなく、疾病のよって起こる社会的な疾患を匡正するまでに発展せしめなければならない。こうしてこそこの事業の新しい真の姿が発揮される。即ち広い意味の厚生事業にまで手を延ばさなければならない。またこういう諸活動と諸施設を一般大衆の福祉の増進という目標のもとに統一されれば医療事業もはじめて完成の域に達することと信ずる」を基本視点としている。

宮城厚生協会の諸事業が、地域医療と介護、福祉の充実に寄与し、地域住民の健康と健やかな生活を支え得ることを願い、日本国憲法が定める平和・人権・民主主義の原則と、国民の生存権と文化的生活の実現のために努力するものである。

宮城厚生協会の使命と存在価値
  • わたしたちは、非営利・公益の保健・医療・福祉事業で社会に貢献します。
  • わたしたちは、基本的人権が尊重される社会をめざします。

Ⅰ. 事業経営をめぐる環境認識

東日本大震災からの6年、被災者に対する医療費一部負担金ならびに介護保険利用者負担減免措置は、国の特別調整交付金による追加財政支援で継続されてきた。2016年以降は9自治体のみとなり、対象は限定され後期高齢者医療は全県で終了している。居住地や保険により対象から外れている被災者の受診抑制が懸念される。

社会保険料負担の増加や、若年層を中心とした将来不安が強まり、家計消費支出は2014年から連続して低下している。非正規労動者の割合が伸び、働いている人や子どもの貧困率が高まっている。2017年度に支給される年金額は0.1%引き下げられる見通しである。

仙台市が実施した「子どもの生活に関する実態調査」では貧困線未満(国の貧困率基準と異なる)の世帯の子どもの割合は11.9%である。このうち、「子どもが病院を受診しなかったことがある」のは16%と貧困線以上世帯の倍以上の割合である。進学断念や学校中退が「ある、または可能性がある」は51%となっている。

社会保障関係の年度予算では、高齢化などによる社会保障費の自然増を14百億円削減して5千億円に圧縮する予算である。医療分野で950億円、介護分野で450億円を削減するとしている。医療保険制度では、70歳以上の高額療養費制度、75歳以上の後期高齢者の保険料、65歳以上の療養病床に入院する居住費が見直され、「協会けんぽ」への国庫補助も見直される。介護保険では、高額介護サービス費の負担上限額と総報酬割の導入により生活援助の人員基準・介護報酬が見直される。

国は2025年を目途に、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで住み続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進するとしている。都道府県ごとに地域医療構想の策定が進められているが、病床数の問題に矮小化され、病床機能の分類、在宅医療の整備などの具体性が示されていない。

2017年4月に介護報酬が1.14%引上げられる。介護報酬改定は利用者負担額に跳ね返るほか40〜64歳の支払い保険料へも影響する。介護職員の処遇改善に限っての臨時改定であり、その他のサービス単価は2018年度に見直される。

高齢者らが長期入院する療養病床の内14万床が2018年3月末で廃止されこととなっている。新たな受入施設は「医療内包型」と「医療外付け型」とされ、施設転換への猶予期間は3年ないし6年で検討されている。医療外付け型は、既存の介護付き有料老人ホームが想定され、補足給付は対象外となる。

介護保険の制度改定で混合介護の拡大に向けた議論が本格化する。事業者の創意工夫を促進し、サービスの多様化や事業者間の競争を促すとするが、自立支援や重度化防止など、本来の目的がないがしろにされる懸念もある。

Ⅱ. 2017年度事業計画

本財団は、公益認定法人として、公益的事業の推進と経営の透明性、健全性を確保し、社会的役割の発揮に全力を尽くす。東日本大震災発生から6年、被災者・被災地が抱える問題はますます複雑化・深刻化している。社会的風化が表れつつある中、長期的視点で支援活動を行う。「保険医療2035年」も視野に「2025年医療・介護改革」への本格的な対応を進め、保健・医療・介護事業を一体のものとして、環境変化に対応した中長期事業計画を策定する。経営改善5ヶ年計画のもと、理事会機能強化をはじめとする組織変革、人事制度改革に着手し、職員教育・研修システムを充実させ、全職員が参画する事業運営に努める。

  1. 患者の立場にたつ診療事業、無料低額診療事業を行う
    • 地域医療支援病院の坂総合病院は、地域包括ケアの中核として地域連携を重視する。入院を中心とした救急・専門医療を充実させ6疾患5事業に取り組む。
    • 各病院・診療所は、地域での医療・介護の連携を大事にし、求められる役割を担う。
    • 高齢者入居施設「はなみずき」は、低所得者や在宅医療を必要とした方でも入居できるホームとして切実な地域需要に応える。
    • 第二種社会福祉事業として、無料・低額診療事業を重視する。
    • 「医療相談」「生活相談」「介護相談」に積極的に取り組む。
  2. 保健予防・集団的健康管理事業を行う
    • 「協会けんぽ」健診事業の充実、専門性を生かした特定健診・保健予防活動を重視する。疾病予防事業としての運動療法、労働安全衛生法に基づく産業医活動に取り組む。
    • 振動病・頚肩腕障害・職業性腰痛、被曝者健診及び被曝二世健診、アスベストによる健康障害やじん肺に関する健康相談等労働者・住民の健康問題に取り組む。
  3. 医療従事者の研修教育、医学・看護学等の研究事業を行う
    • 東北大学と東北医科薬科大学との連携による医師・薬剤師養成、みちのく総合診療医学センターでの家庭医・総合診療医養成に取り組み、地域医療を担う医師・薬剤師を育てる。
    • 専門研修のため国内外大学・研究機関への研修派遣を行い、地域医療に貢献する。
    • 救急医療・地域連携などの地域開放型研修会の開催、救急救命士の認定研修、認知症対応力能力向上を目的とした研修会等を実施する。
    • 医師・薬剤師・看護師をはじめとした、医療・介護系学生の研修・実習の受け入れ、育成を行う。
  4. 訪問看護・介護、通所、在宅介護支援事業、障害者の医療・福祉事業を行う
    • 悪性疾患への対応、障害児・重度の乳幼児への訪問、ケアステーションを核とした在宅看取りへの対応など、在宅での療養と介護を支える。
    • 医療度の高い遷延性意識障害者、重度の障害者の療養を支える。
    • 24時間定期巡回・随時対応サービスなどの在宅サービス強化やリハビリテーションなど自立支援型サービスの計画的な人材育成を行う。
  5. 地域住民との協力による健康増進事業を行う
    • 地域住民と協力して「健康相談会」「仮設住宅等での健康相談会」「路上生活者等の健康を守る健診・食事会」等の健康増進に取り組む。
    • 県内に避難している福島第一原発被曝者、被災住民の健診や相談会、双葉町からの避難者や県南地域での甲状腺エコー検診等に取り組む。
  6. 総合的な社会保障制度確立に関する事業を行う
    • 地域住民の健康権を守るため、社会福祉士などによる医療相談・生活援助に取り組む。
    • 社会保障制度が活かされるよう、医療・介護現場の気づきを大事にしながら改善援助に取り組む。